イフガオ州のバナウエ、キアガン、マヨヤオ、フンドアンの4つの郡は、ユネスコにより世界文化遺産に指定されている。しかし森林破壊や棚田での働き手の不足から、耕作を放棄された棚田が増え、2001年には世界危機遺産に指定されてしまう。イフガオ州の棚田の保全には過去、日本(ユネスコ)が棚田と伝統文化保全のための活動をサポートしてきた他、JICA-NGOの技術協力プロジェクトで森林保全やライブリフッド事業などが行われてきた。
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)も、「東芝150万本の森作り」のサポートを受け、2007~2009年にマヨヤオ郡バランバン村とフンドアン郡ハパオ村で、アグロフォレストリーと植林事業を行っている。
世界遺産にもなった棚田の崩壊原因のひとつが森林破壊だ。
イフガオ民族は生まれながら芸術センスを持ち合わせているといわれ、伝統木彫りの技術は他に類を見ない。それゆえ、海外からの大型の木彫り像の注文などなどがあとを絶たず、古来の暮らしでは生活用品にのみ使っていた木彫りが、輸出用の置物や家具、棚田観光のお土産品などとして大量に作られるようになった。それに伴い材料の木材が、イフガオ州の森林から次々と切り出され、森林は見るも無残な状況となっている。 もともと、イフガオ族は「世界8不思議」の一つに数えられる、急峻な山肌に作られた膨大な数の棚田に水をいきわたらせるために、棚田の上のほうにある森林には手を入れず、水源地として先祖代々たいせつに守ってきた(そういった森林保全の伝統の方法は「ムヨン」または「ピヌグ」と呼ばれる)。近年ではその風習さえも失われつつあり、昨年のエル・ニーニョによる水不足では、たくさんの棚田の水が枯れ、稲が育たないというかつてない事態まで発生した。
そのような背景をふまえ、フンドアン郡ハパオ村での環境教育ワークショップのテーマは「稲わら」とした。
世界遺産の棚田で収穫さる稲わらで紙を漉き、ランタンやポストカードを製作する指導です。安価な土産物を作るため何百年もかけて育った木を切るかわりに、今まで不要とされていた自然素材から新しい工芸品の可能性を紹介しようというもの。ワークショップ参加者は、ハパオ村とその隣バアン村の小学生たち。手漉き紙作りの講師はベンゲット州カパンガン郡ポキン村在住の日本人紙漉き職人・志村朝夫氏。「ウドン」と呼ばれる稲わらの穂に近い部分が手漉き紙の材料としてたいへん優秀であると志村氏は以前から試作を続け、ホワとよばれる潅木の樹皮との混合や、コンニャクによる加工で強度や防水性を増す方法を生み出した。
子供たちが漉いた紙は乾燥させて、水田に浮かべるランタンとクリスマス・カードの素材に使用された。ランタン作りと凧作りの指導には大阪のAmanTo 天然芸術研究所から参加の西尾純氏。
最後には参加の子供たちみんなで、いつか村と森に鳥やワシが戻ってくる日を夢見て凧揚げ。
元気に凧を上げて飛び回る子供たちの明るい声が、棚田に響き渡る素晴らしい時間となった。
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